- 近隣トラブルがあった場合、不動産の売買契約を解除できるのか?
- 近隣トラブルで不動産売買の解除が認められるような典型例があるのか?
【事例】
先日、マンションを購入しました。
購入して、いざ住み始めてみると、隣人が夜中大声で叫んだり、大音量でラジオをかけたりし、夜は眠れない生活が続いています。
マンションの売買契約を解除することはできますか?
Q1.事例のような場合、マンションの売買契約を解除することはできるか?
一般人を基準として、誰もがその使用の際に心理的に十全な使用を著しく妨げられる場合、すなわち一般人に共通の重大な心理的欠陥がある認められるような場合に該当すれば、契約不適合責任が認められ、売買契約の解除や損害賠償請求ができる可能性があります。
まず、民法では、売買契約に基づいて提供されたものが、契約内容に適合しないものであった場合に契約解除や損害賠償請求ができる旨の規定、契約不適合責任(改正前民法では瑕疵担保責任と言われていたもの)が定められています。
そして、通常の不動産(建物)の売買においては、(当事者が了承しているものを除き、)建物の構造に問題・欠陥がないもの提供することが契約の内容として当然の前提となっているため、契約の解除や損害賠償が認められる可能性が高いです。
今回、不動産(建物)自体の構造や工事に問題・欠陥がある場合ではありません。
このような場合でも、契約不適合責任が認められる余地があるのかが問題となります。
この点、裁判所は、不動産といった売買の目的物に物理的欠陥がある場合だけでなく、目的物の通常の用途に照らし、一般人であれば、だれもがその使用の際にその使用の際に心理的に十全な使用を著しく妨げられるという欠陥、すなわち一般人に共通の重大な心理的欠陥がある場合には契約不適合責任(瑕疵担保責任)により、契約解除や損害賠償請求を認めています。
ただ、今回の事例のように隣人が大声を出すという事例の場合、裁判所としては、心理的な欠陥があったと認めることについては消極的です。というのも、大声等音に対してあまり気にしない人も少なからずいるということが理由のようです。
したがって、今回の事例でいえば、一般人を基準として、重大な心理的欠陥があるかどうかについては、騒音の程度(音量や頻度)等詳しい事情を精査する必要があるかと思いますので、お近くの弁護士に相談することをお勧めいたします。
【参考事例(東京地裁令和2年12月8日)】
隣人が、平成23年頃から頻度にはばらつきはあるものの継続して、昼夜を問わず数分ないし10分程度、物音がうるさいとか物が盗まれたなどと大声を出してベランダで叫ぶ、ラジカセを大音量でかける、壁等を強く叩く、本件マンションの居住者に対し、携帯電話で撮影する、追いかける、意味不明な発言をする、難癖をつける、怒鳴りつけるといった迷惑行為をしていた事例
裁判所は、心理的に一定程度その使用を制限されるものであることは否定できないとしても、一般人であれば誰もがその使用の際に心理的に十全な使用を著しく妨げられるといえるような、一般人に共通の重大な心理的欠陥があるとまではいえないと判断しています。
したがって、裁判所が簡単に「心理的な欠陥」と認めるわけではないようです。
Q2.心理的な欠陥が認められた事例、典型例はありますか?
認められやすい事例の典型例としては、反社会的勢力関係の事例があります。
例えば、購入した中古マンションに、反社会的勢力に関係がある人々が住んでおり、日々、反社会的勢力の人々が出入りし、時には、マンション前の道路を封鎖し、当該住民の関係者がゴザを敷いて深夜まで大騒ぎをする等、他の入居者に日々様々な迷惑行為を行っていた事例があります(東京地裁平成9年7月7日)。
当該事件では、一般人の平穏な生活、居住環境を乱しているとして心理的欠陥を認め瑕疵があると裁判所が判断し、契約不適合責任(瑕疵担保責任)を認めています。