不貞

夫が所有する家に住む妻に建物の明け渡しを求める請求はできるか?

この記事でわかること
  1. 別居中の夫名義の家に居住する妻に対して建物の明け渡し請求は認められるか?
  2. 明け渡し請求が認められない場合、妻に対して居住する建物の賃料を請求できるか?

【事例】

夫であるAさんは、現在妻と別居しています。 

Aさんは、妻と21年間、同じ家(本件建物)に住んでいましたが、Aさんは妻とは別の女性と交際をはじめ、その女性との間に子供が生まれました。 

Aさんは、別居し、交際女性と認知した子供と3人で同居をしています。 
Aさんは妻に離婚したいと伝えましたが、妻は離婚には応じられないと回答しました。 

別居してから3年5か月が経過したある日、Aさんは現在交際している女性と認知した子供と本件建物に住みたいと思い、妻に対して建物の明け渡すように請求しました。 

本件建物は、別居前にAさんが購入したもので、名義もAさん名義であり、夫婦の共有財産ではありません。 

Aさんは、自分の不動産をどのように扱うかは所有者が決められるはずと言っています。このような請求が認められるのでしょうか? 

Q1 Aさんから妻に対する、建物明け渡し請求は認められますか。 

 結論としては、今回、Aさんからの「明け渡し請求」は認められません。 

 Aさんには、不貞行為だけでなく、勝手に本件建物を出て行った悪意の遺棄も認められます。妻は離婚を拒否しており、婚姻関係は完全には破綻しておらず、夫の主張は権利濫用に該当しますので、Aさんの請求は認められません。 

Q2 明け渡してもらうことはできずとも、妻に対して、本件建物の賃料(家賃)を損害金として請求できますか? 

 妻の居住は正当であり、請求は認められません。 

 確かに、無断で本件建物を使用・占有している人に対しては、所有権侵害による不法行為責任が成立する余地はあります。 

 しかし、今回の事例では、妻が本件建物に単独で居住することを許容しつつ、Aさんが本件建物を出ていったという経緯があり、Aさんと妻の間には、本件建物の黙示の使用貸借契約が成立したと考えられます。 

 そのため、無断使用・占有ではありませんので、妻に対する請求は認められません。 

 では、使用貸借契約自体を解約すればいいかと問われれば、夫婦の離婚問題や妻の居住に関する問題が解決するまで、又は、これらの問題が解決するのに必要な相当な期間が経過するまでは、原則として一方的に解約することはできないと思われます。 

 もっとも、Aさん側で解決方法が無いかと言われれば、存在します。 ただ、解決方法は個別事案ごとに異なるかと思います。 
 今回の事例のいずれかの立場になってしまった方や、建物明渡しの問題で困った方、建物明渡しに関連する問題は複雑ですので、専門家である弁護士にご相談することをおすすめします。