労働問題

会社から急に異動を命じられた。この命令には絶対に従わなければならないのか?

この記事でわかること
  1. 会社からの配転命令に必ず従わなければならないのか?

【事例】
 私は、現在、東京の本店で勤めています。
 しかし、先日、会社から急に1か月後に大阪の支店に異動するように命じられました。
 つい最近マイホームを購入したばかりですし、子どもの保育園もやっと見つかって、妻も復職したところです。さらに、このマイホームを購入した際に、足が不自由な私の母とも同居を始めました。
 このような状況で、家族を連れて大阪に引っ越すことは難しいです。また、私が単身赴任をするとなれば、妻に育児と介護の負担を強いることになり、とてもじゃありませんが転勤に応じるというわけにはいきません。
 しかし、会社の命令とあれば、私はこの異動命令に従わざるをえないのでしょうか?

Q1.会社からの配転命令に必ず従わなければならないのか?

まず、労働契約上に配転命令の根拠があるのか、否かに分けて回答します。

労働契約上に配転命令の根拠がない場合

労働協約や就業規則等、労働契約上において「業務上の都合により、配転を命じることができる」といったような規定があれば、会社が労働者に対して配転命令をすることができます。

もっとも、そのような規定がないのに、会社が労働者に対して配転命令をした場合は、無効となります。

したがって、もし、相談者の会社との間の労働契約において、会社の配転命令を認める旨の内容が含まれていないのであれば、今回の異動の命令に従う必要はないということになります。

そこで、まず今回の事例では、相談者の会社において、会社に配転命令権があるのか、就業規則等をまずは確認する必要がありそうです。

労働契約上に配転命令の根拠がある場合

(1)配転命令権は無制限に許されるものではない

次に労働契約上に配転を命じることができると規定されていた場合、会社は労働者に対して配転命令をすることができます。

しかし、配転命令は、労働者の生活環境に少なからず影響を与えるものですので、無制限に配転命令が許されるというものでもありません。

そこで、次のいずれかの場合に該当するときは、配転命令が権利の濫用であるとして配転命令が無効であるとされています。

(2)配転命令が権利の濫用であるとして無効とされる場合

ア 当該配転命令の業務上の必要性が存在しない場合

イ 当該配転命令の業務上の必要性が存在しても、次に掲げるような場合
(ア)当該配転命令が、不当な動機や、目的をもってなされた場合
(イ)労働者に対して通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるもので
   あるとき
(ウ)その他(ア)、(イ)に匹敵するような特段の事情があるとき

今回の事例の場合、
・配転命令が業務上必要があるのか、
・業務上必要であるとしても、配転命令が、例えば退職強要目的で行われた等不当な目的で 
 行われたものではないか
等についても弁護士に相談しつつ、検討した方がいいと思います。

もっとも、相談事例の内容の限りでは、イ(イ)に挙げているように、当該配転命令が、「労働者に対して通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものである」といえるのかが争いの中心になることが予想されます。

(3)労働者に対して通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものとは?

労働者に対して通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるのかどうかについては、主に、業務上の必要性と労働者が受ける不利益を比較し、さらにその他の事情等を考慮して判断されます。

今回の事例でいうところの“労働者が受ける不利益”とは、子どもの養育や、母親の介護が困難になるという点でしょう。

そして、いわゆる育児・介護休業法(育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律)第26条では、配転の際に子の養育や、介護状況について会社が配慮する必要あること定めています。

そこで、今回の事例では、このような法律の規定に照らしても、子の養育や、母の介護が困難になることは相談者にとって大きな不利益になると主張する(ひいては権利の濫用であるとして、配転命令は無効だと主張する)余地がありそうです。

もっとも、他にも業務上の必要性の程度や、その他の事情等、種々の事情を考慮する必要があるため、今一度、弁護士に詳細を話して相談してみるのがよいと考えます。